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日活も大映も、そして東映も 世界に誇る日本映画は京橋から始まった

2015.10.21 art/culture

日本のメジャー映画会社が集まっていた京橋  

京橋が、日本映画と深いつながりを持つ街だということをご存じですか。
鍛冶橋通りに面した、この「東京国立近代美術館フィルムセンター」が建っている場所は、1969(昭和 44)年まで東京国立近代美術館がありました。実はその建物、1932(昭和7)年に建てられた日活の本社ビルを改装したものでした。日活の本社になる以前は京橋日活という映画館であり、さらに遡ると、明治時代は第一福宝館という映画館でした。
日活は、1912(明治45)年、福宝館を経営する福宝堂も含めた映画会社4社が合併して設立されました。日活はいわば日本で初めてのメジャーな映画製作会社であり、アメリカで言えばパラマウントやワーナーに匹敵するような存在でした。その日活ゆかりの映画館が、ここにあったのです。まさにフィルムセンターがある場所は、日本映画のメッカなのです。
それだけではありません。昭和30年代には、今の東京スクエアガーデンの場所に大映の本社があり、京橋2丁目に東映本社があった時期もありました。少し足を伸ばした東銀座に松竹の本社もありますから、日本のメジャー映画会社のほとんどが京橋近辺に集まっていました。京橋は、まさに「映画の町」だったのです。

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日本映画という貴重な財産を守りながら、貴重なフィルムを公開

ところで、皆さんは、日本映画にどのようなイメージを持っていらっしゃるでしょうか?フィルムセンターで研究員を務める大澤浄さんは、次のように語ります。

「映画=ハリウッドとイメージされる方も多いかもしれませんが、実は、過去90年以上にわたって毎年400本程度の映画をコンスタントに作ってきた日本のような国は、世界にも類を見ません。その意味で、間違いなく日本は映画大国なのです。質の面でも、音声のないサイレント映画の時代から日本がレベルの高い作品を生み出していたことは、世界の映画ファンが認めているところです。日本映画がなければ、世界の映画史はもっと寂しいものになっていたでしょう。日本映画は映画史にとって、価値のある財産なのです。そして、その映画史に誇る日本の財産を守る中心的な役割を果たしているのが、私たち東京国立近代美術館フィルムセンターです。
具体的には、映画フィルムを集め、次世代の人たちに引き継いでいくための保存をするかたわら、それらを皆さんに上映というかたちで公開、還元しています。」

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フィルムセンターでの映画の上映は、日活本社時代に試写室だった設備を利用して、1952(昭和27)年に東京国立近代美術館が開館した初日から行っていたそうです。元々は美術館の普及広報活動の一環として始まりましたが、絵画の鑑賞ではなく映画を目当てに来館される人が増え、年々、映画上映の規模が拡大していきました。その後、美術館が竹橋に移転するのをきっかけに、東京国立近代美術館の一部門として「フィルムセンター」が設立され、この京橋に残ったのです。フィルムセンター以前から続くこと63年。その間、実におよそ1万2000本の作品が上映されました。

なかでも、1992(平成4)年に、幻の名作と言われた『忠次旅日記』三部作(伊藤大輔監督、大河内傳次郎主演、1927年、日活)を上映した時は、たいへんな注目を集めました。この作品は、公開当時、権威ある映画専門誌のベストワンに選ばれ、その後20年、30年を経ても日本映画オールタイムで第1位を取ってしまうほど高い評価を得ていました。それにもかかわらず、フィルムが現存しないと考えられ、「もう見ることができない」とされていた幻の映画だったのです。ところが、あるコレクターが所蔵していることが判明し、フィルムセンターに寄贈されることになりました。失われたと思われていた日本映画の宝が、半世紀以上の時を超えて、蘇ったのです。

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「『忠次旅日記』が発見されたことは、映画フィルムを残すことの大切さや、フィルムセンターのアーカイブとしての役割を広く知っていただく上でも、大きな出来事だったのではないかと思っています。最近では、昨年の増村保造監督作品の特集上映に、たくさんの人に集まっていただいたことが記憶に残っています。とりわけ、女優の若尾文子さんがトークゲストでいらした回は、トーク時にロビーがお客さんであふれ、フィルムセンター史上、最多の入場者数を記録しました」(大澤さん)

デジタル作品の長期保存への取り組みを開始

力を持った作品、また素晴らしい映画スターというのは、時代に関係なく輝き続けているものです。振り返れば、映画の歴史120年の大部分、およそ110年間の映画制作はフィルムが担ってきたことになります。その膨大なフィルム資産の収集は、フィルムセンターの大きな役割になっています。一方で、昨今のデジタル作品のアーカイブにも大きな課題があると大澤さんは語ります。

「現在フィルムセンターでは、日本で作られた映画作品のほんのわずかしか収蔵できていないのが現状です。日本の財産を守るために、これからもフィルムを集める努力を続けていかなければなりません。

その一方で、デジタルで作られた作品の保存が、大きな問題になってきました。現在、100年後まで確実にデジタル作品を保存できる方法が、確立されていないのです。デジタル作品といえども、保存のためには何らかのメディアに格納しておく必要があります。格納する“メディア”を必要とする限りは、データが破損するリスクを考慮しなければなりませんし、データが無事に残っていたとしても、それを読み出す機器をどう残していくのかという問題が出てきます。

つまり、フィルムのように「フィルムを適切な環境下で倉庫に置いておけば安心」というわけにはいかないのです。現段階では、定期的に違うメディアに移し替えていくしかないと考えられています。しかし、それにかかる膨大な手間とコストをどうするのかなど、まだまだ解決すべき課題は山積しています」

いまフィルムセンターでは、デジタル作品の長期保存をどうすべきかの調査・研究に取り組み始めています。ホームページでも、Q&A形式で映画の長期保存についてわかりやすく解説されています。フィルムからデジタルへという映画を取り巻く大きな環境の変化の中で、作品を後世に残すことの意義を伝える。フィルムセンターの挑戦は、始まったばかりです。

素晴らしいと感じた気持ちを大切に映画の興味の幅を広げてほしい

最後に、映画文化の楽しみ方について、大澤さんにお聞きしました。

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「素晴らしい映画とは、どんなメディアで見ようと、多少画質が悪くても関係なく素晴らしいものだと思っています。映画館でなくても、DVDやネットでも、入り口は何でもいいですから、とにかく映画に触れてほしいと思います。そして、『素晴らしい』『おもしろい』と感じた気持ちを大事にしながら、少しずつジャンルや時代の幅を広げていっていただければと思います。そして、そうした作品が、元々は映画館の大きなスクリーンで上映されるために、フィルムで作られたという事実を知ってもらえると嬉しく思います。

『素晴らしい映画』イコール『新しい作品』とは限りません。古い映画にも素晴らしい作品がたくさんあります。今はインターネットなども進歩し、探せばいくらでもいい映画に出会える、素晴らしい時代です。たくさんの映画との出会いの中で、先人たちが残してきた映像作品の価値や、映画館で映画を見ることの価値を感じていただければ、こんなにうれしいことはありません」

INFORMATION

名称 東京国立近代美術館フィルムセンター
住所
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
営業時間 -
定休日 月曜日
カード -
Webサイト http://www.momat.go.jp/fc/

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